道徳武芸研究 合気破法としての阿弥陀定印(2)
道徳武芸研究 合気破法としての阿弥陀定印(2)
阿弥陀定印と法界定印の違いは、指にテンションを掛けることで緊張とリラックスの度合いを調整しようとするところから生まれている。法界定印よりも、阿弥陀定印の方がより緊張の度合いが強いが、それは阿弥陀教では観想というイメージを瞑想に用いるからである。イメージを多用するのは密教で、大日如来の知拳印は両手を拳にしている(金剛界)。これはかなりの緊張を持つ瞑想、つまりイメージを伴う瞑想であることが分かる。ただ胎蔵界の大日如来は法界定印で、従来の仏教と同じである。日本では金剛界と胎蔵界の修法を共に習うが、手印からしてこれらは別の系統の修行法であることは明らかであろう。こうした心身の緊張のコントロールという視点から手印を見ると法界定印と阿弥陀定印との違いと同じようなものを、蟷螂手と牛舌掌に見ることができる。蟷螂手と同様な掌形は酔拳や秘宗拳などでもある。それは親指と人差し指とでテンションを作る掌形である(ちなにみ蟷螂手ではこれに中指を添える場合も多い)。この掌形は相手を引っ掛けるためのもので、鷹爪掌のように五指を用いて握ることはしない。当然、五指を用いた方が掴む力は大きくなるが、返し技を掛けられる危険も大きくなる。そのため適度なホールド(緊張度)を得るための方法として蟷螂手のようなものが考案されたわけである。蟷螂手では親指と人差し指で相手をホールドしているだけなので、容易に外れてしまう。外れやすいことは返し技に掛かり難いということである。ちなみに牛舌掌でも相手を掴むことなく、身体を擦る程度で相手の体制を崩そうとする。これには一定のテクニックがなければならないが、こうしたテンションのほぼ無い掌形では返し技を掛けられる心配はない。太極拳なども、この掌形を用いている。