道徳武芸研究 太極拳における「文」と「武」と(2)

 道徳武芸研究 太極拳における「文」と「武」と(2)

少林寺の易筋経は五獣拳(龍、蛇、虎、鶴、豹)となったとされ、ここに武術としての体系を有することになるわけであるが、それは華陀の五禽戯(虎、鹿、熊、猿、虎)と同じく導引的な行法の発展と見ることができる。ヨーガも瞑想を主体とするラジャ・ヨーガから心身の調和をはかる体操法(導引)を含むハタ・ヨーガへと発展している。少林寺でも経行という簡単な行法が五禽戯のような導引へと展開し、それが更には拳術へとなったとされるのである。一方で坐禅は立禅として展開された。この立禅は坐禅の手印(法界定印)のままでただ立つだけの行法である。これが拳術の馬歩の形となり馬歩トウ功となる。つまり坐禅から立禅そして馬歩トウ功(馬歩は拳術のもっともベースとなる形)へと坐禅が次第に拳術へと近づいて行っているわけである。一方、拳術では慢架というものが考案されるようになる。慢架で有名なのは秘宗拳の「長拳」や太極拳であるが、慢「架」以前に慢「練」という練習方法があった。これは少林拳でも一般的に行われいている。つまり通常の拳の套路をゆっくり練るのであるが、この時には全身に力を込める。こうした慢練が秘宗「長拳」のような特に力むことのないゆっくりとした慢架の套路となり、太極拳のような力みを捨てたものへと結実することになる。これは坐禅をする時に全身に力を込めないのと同じで、拳術の套路においても坐禅と同じ心身の状態を保つことを太極拳では完全に可能にしたのであった。


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