道徳武芸研究 太極拳における「文」と「武」と(1)

 道徳武芸研究 太極拳における「文」と「武」と(1)

少林寺はいうならば中国武術の象徴的な発祥地とすることができるであろう。そこで武術の淵源とされたのは易筋経と洗髄経であった。これは達磨が伝えたものとされている。こうした伝説が生まれる背景には洗髄経には坐禅、易筋経には経行(きんひん)があったのであろう。経行はゆっくり歩くもので、日本では坐禅の足のしびれをほぐすものとして行われるのに留まるようであるが、中国やその周辺各国ではこれをウォーキング・メディテーションとして坐禅に並ぶ行法としている。これと同じ構図が八卦拳に見られることは前回に触れた。八卦拳では静坐と走圏であり、八卦拳の場合は天台宗の止観の常坐三昧と常行三昧と深い簡易が見られることについても述べたが、こうした八卦拳の持つ修行体系が少林寺の洗髄経と易筋経(歩くということでは経行に同じ)に通じるものであることから閻徳華は八卦拳の用法書が少林寺の壁の中から発見されたとして『少林破壁』と題する本を出版したのであった。つまり八卦拳こそが失われた達磨の伝えた少林拳であると主張したい意図がこの書の最名には隠されていたのである。もちろんこれは妄想に近いものであり、少林寺の禅宗と八卦拳の天台宗とはおおきく違っている。


このブログの人気の投稿

道徳武芸研究 「合気」の実戦的展開について〜その矛盾と止揚〜(3)

道徳武芸研究 両儀之術と八卦腿〜劉雲樵の「八卦拳」理解〜(2)

道徳武芸研究 八卦拳から合気道を考える〜単双換掌と表裏〜(4)