道徳武芸研究 八卦掌における「三才式」と「三体式」(下)
道徳武芸研究 八卦掌における「三才式」と「三体式」(下)
八卦掌における「三体式」は走圏である。一部に八卦掌の構えをして形意拳同様に静止した状態を続けることも行われているが、それは好ましくはない。八卦掌の構えはあくまで「動」であり、これを「静」として練るのは適当ではないのである。八卦掌の「三才式」と「三体式」を考える上で重要なことが孫禄堂の『拳意述真』の「程廷華」のところに出ている。つまり八卦掌を練る時には「口の中で常に阿彌陀佛の念仏を唱えるが如くにする」というのである。これは八卦掌の走圏が天台宗の常行三昧と関係が深いことを示している。常行三昧は止観(瞑想)のひとつの行の形で阿弥陀仏の周りをひたすら巡るものである。止観にはこの常行三昧と並んで常坐三昧がある。これは坐っての仏教瞑想である。つまり八卦掌の走圏が止観の常行三昧と深い関係があることを前提とするならば、もうひとつの常坐三昧も存することが予想されるのであって、これが八卦掌では静坐であったと考えることができるのある。静坐と武術の形は少林寺に淵源すると思われるが、こもスタイルは日本でも近世あたりに剣術と坐禅というかたちで形成されることになる。日本での坐禅と剣術の併修は中国からの影響によるものではないようであり、自然に形成されたもののようであるから静坐と剣術・拳術の併修はあるいは人体のシステム上、自然であることなのかもしれない。