道徳武芸研究 站トウ、試力、試声と自衛(下)

 道徳武芸研究 站トウ、試力、試声と自衛(下)

王キョウ斎の「意拳正軌」には「トウ法換勁」の一節がある。これは站トウを行うことで攻防の力である「勁」を得ることが可能であるということを論じているのであるが、この考え方は形意拳独特と言っても良いのかもしれない。一般的にはトウ法を練った後に套路などで「勁」を練る。「トウ法換勁」は形意拳では三体式の秘伝となる。王は三体式に触れることなく「トウ法換勁」を説こうとするので、いまひとつ具体性に欠ける説明となっている。いうまでもないことであるが三体式は形意五行拳の劈拳と同じである。そうであるから他の拳術で套路を使って「勁」を練らなければならないのに対して形意拳は「トウ法」である三体式をして「勁」を練ることが可能となるのである。こうして見ると三体式は実はひじょうに優れた方法の発明であったと言わなければなるまい。もちろん「トウ法換勁」を行うには具体的な方法がなければならないわけであるが、それが「翻讃」である。「起落翻讃」は形意拳の原則ともいうべき拳訣であることは先に述べたことがある。その中で三体式では「翻讃」を練る。これに「起落」が加わると五行拳となる。三体式における「翻讃」は手首の「蓄力」を使う。たとええば半身の構えのまま掌を拳にして内側にねじると劈拳の始めの動作の鷹捉となる。また手首に力をためて掌を打つと劈拳の掌打となる。こうしてトウ法から勁を練り出すのであるが、これに先にも述べたように「起落」が加わることで五行拳による精緻な攻防(自衛)が展開される。さらに重要なのは形意拳の「梢節」(体の末端)から動く、その基礎練習がここに述べた「翻讃」となっている点である。この練習を経なければ往々にして足を出す勢いで動いてしまうことになる。そうなると跟歩の時に体が残されて半身の構えが崩れてしまう。


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