道徳武芸研究 太極拳・秘伝の「採腿」について(4)

 道徳武芸研究 太極拳・秘伝の「採腿」について(4)

踏み込む蹴りが「採腿」であるのであるが、そうであるなら相手を捉える「採」はどこに見られるのであろうか。右手で相手を捉えるところであろうか。そうではない。これは八卦拳を見ればよく分かる。八卦拳では暗腿や截腿があり、これを七十二種類あるなどとしている派もあるが、暗腿や截腿は拳理であるとするべきであろう。暗腿を広い意味で「相手から見えないところでの腿法」とすれば、暗腿の中に截腿は含まれることになる。「採腿」の形からいうなら相手の膝や脛を蹴って出足を止める截腿はまさに採腿そのものである。ちなみに狭義の暗腿は「入身で相手の死角に入ってからの腿法」で、入身で相手の前足の奥にまで入って、足を掛けて体勢を崩すのが暗腿となる。実は太極拳の採腿にも、この動きが先に含まれている。そうであるから「採」腿なのである。先ずは相手の体勢を崩して、そして相手がバランスを崩して前に倒れて来た時に踏み込むように蹴るわけである。八卦拳ではこれを扣歩というが「扣」には「ボタンを掛ける」という意味がある。ちなみにこの腿法には「掛」字訣がある(相手の足を引っ掛けるという意味)。つまり暗腿には明確に「採」の働きが見られるのである。ある意味で採腿で肝心なのは、最後の蹴りよりも始めの崩しにあるといえるであろう。野見宿禰が相手のあばら骨や腰骨を踏み砕くことができたのは、足を使っての崩しを用いていたからと考えられるのである。そして陳炎林が採腿を「秘伝」として最後の蹴りしか示していなかったのは、その前に「採」のあることを暗示していたわけなのである。


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