道徳武芸研究 『八卦拳真伝』と千峯老人・趙避塵〜武術と静坐〜(1)
道徳武芸研究 『八卦拳真伝』と千峯老人・趙避塵〜武術と静坐〜(1)
『八卦拳真伝』は孫錫コンの著書で八卦拳の「真伝」を記すとしている。ただ、その「真伝」は伝承されて来たものではなく、あるべき姿としての「真伝」であり、その中には静坐や女性の修行についても触れている。『八卦拳真伝』の「自序 八卦源流」によれば孫錫コンは小さい頃から武術に関心があり、仕事のために天津に出てからは友人について形意拳を習っていたという。天津といえば近代形意拳の二大巨頭である張占魁と李存義の居るところであるから形意拳は盛んであったのであろう。数年、形意拳を習っていたものの物足りなく思うと同時に、八卦掌が玄妙であることを知って程有龍の門下に入る。程有龍(海亭)は八卦拳を北京にもたらした董海川の弟子の程廷華の長男で、当時は北京と天津に武館を持っていた。その弟子には後に八卦太極拳を考案する呉俊山や台湾で双辺太極拳などを指導した陳ハン峰も居たが、その晩年は生活に困窮しており天津の浄業庵で孤独死したとされる。八卦掌には掌法だけではなく剣術や各種の武器もあった。ちなみに『八卦拳真伝』には剣術の他に鴛鴦戉、方天戟、春秋刀、楊家槍法、双刀なども紹介されている。しかし道功(静坐)は八卦掌の伝承の中には含まれていなかったようである。