道徳武芸研究 「御信用之手」と「御式内」そして「引進落空」(2)
道徳武芸研究 「御信用之手」と「御式内」そして「引進落空」(2)
「御信用之手」については「護身用之手」ではないかとする説も見られるが、おそらくはそうであろう。私見によれば現在「合気上げ」とされているものが「御信用之手」であったと考える。これは剣術の裏技で、手を抑えられた時に抜刀をするための技術であった。ただ剣術の場合、腕を抑えられるということは多くあるわけではない。そのため「合気上げ=御信用之手」が「合気剣術」のように「合気」が全面に出てくることはなかったのである。江戸時代が終わり、明治になると剣術は日常的には使わなくなり、柔術の時代となる。そこで「御信用之手」は近代になると剣術ではなく柔術と合体されて、しかも柔術の場合には相手に持たれることが一般的であることもあって、そうした中で「御信用之手」は大東流の中核的な位置を得ることになる。当初は「合気」という語がいまだ付されていなかったと思われるが、後には(おそらく『合気之術』(1900年)の影響と思われるが)「御信用之手」は「合気上げ」と称されるようになるのである。最も重要とされる「合気上げ」が全く伝書に記されていないのは、既に「御信用之手」があるからに他ならない。