宋常星『太上道徳経講義』(41ー12)
宋常星『太上道徳経講義』(41ー12)
広き徳は足りないが如し。
広く徳を実践している人の心は天地と等しく、その広さは海にも匹敵しよう。聖人は己のいまだ達していないところまでも学ぼうとするが、それで名を成そうとも思っては居ない。むしろ自分には徳の実践が足りないのではないかとさえ考えるのであり、決して自分の徳の実践が行って余りあるものとは思わない。日々に徳を行っても、それで良いとすることはない。善を為しても、それを行ったと自負することもない。そうしたことを「広き徳は足りないが如し」としている。
〈奥義伝開〉「徳」と「道」とは同じである。「道」を実践すると「徳」となり、「徳」の原理が「道」である。そうした「徳」を広い範囲で見れば、そこには足りないところ、「徳」の及んでいないところがあるように見えるものである。しかし、無為自然に過不足無く「徳」が行われるのが行われているなら、そこは過不足がないのであるから他の人からは何か為されたのかどうかが分からない。武術でも真に優れた武術家は戦う前に相手を制しているので、戦うことがない。そうなると武名も上がらない。そして、こうした武術家はあたかも奥義に達していないかのよう見えてしまう。「足りない」ように見えてしまうのである。