宋常星『太上道徳経講義』(41ー10)
宋常星『太上道徳経講義』(41ー10)
優れた徳(上徳)は谷(の空間)のよう。
優れた徳を実践する人の心は大いなる虚にある。その心の徳は天地ほども広大である。それは谷の空間と同じく、どのようなものも受け入れてしまう。これが「優れた徳(上徳)は谷(の空間)のよう」ということである。
〈奥義伝開〉これは『老子』の第十一章にあった「無用の用」と同じ考え方である。何もない空間があるからこそ車輪や器、部屋は有用であるという考え方である。また「谷」は老子の好むイメージで「谷神」(第六章)などの語も見られるが、これは「天地の根」とされている。また第六章は「綿綿(緜緜)若存、用之不勤」とあり、太極拳の拳訣である「綿綿(めんめん)不断」と深い関係を有している(「緜」は綿の正字)。それは「綿綿不断」で動いていれば「勤(つか)れず」ということで、それが可能となるのは「綿綿」の動きをすることで「天地の根」である「谷」が開かれるからに他ならない。この「谷」はまた「丹田」とも言われている。人体の根である下丹田を開くことは、つまりは上徳を養うことにもなるのである。