道徳武芸研究 神道秘儀としての八卦拳(3)
道徳武芸研究 神道秘儀としての八卦拳(3)
かつて武術研究家の康戈武は八卦拳の発祥に道教の転天尊の儀式のあることをあげていた。これは朝夕で本尊の天尊の周りを左、右と巡るものである。ただこうした儀式は仏教の阿弥陀教に由来するもので、さらにそのもとは印度の仏塔信仰、さらには礼法として敬意を示す相手の周りを右に巡ることが根源にあった。こうしたインドの日常的な礼法により釈迦の遺骨を納めた仏塔の周りを巡る行為が生まれたのである。同様に阿弥陀如来に敬意を示す行為が行としてひたすら阿弥陀の周りを歩き続けるというものとなった。これは天台宗の常行三昧がよく知られていて、日本では今でも比叡山などで修されている。程廷華は八卦掌をして「口に阿弥陀を唱えるように」とする口訣を残している(孫禄堂「拳意述真」)ことからすれば、八卦拳は阿弥陀の行法と密接な関係があったことが伺える。康があえて道教と八卦拳とを関連付けたのは、自国の文化の中に八卦拳の源流を求めたかったからであろうが、現在では「転天尊」起源説はあまり強くは支持されていないようである。