道徳武芸研究 神道秘儀としての八卦拳(1)
道徳武芸研究 神道秘儀としての八卦拳(1)
神道の秘儀としての八卦拳は「柱を巡ることにある」というのが今回の論の主旨である。神道において柱を巡るのは、イザナギ、イザナミが「天の御柱(みはしら)」を巡って「みとのまぐわい」つまり結婚(陰陽のむすび)をしたことがある。この場合に、わざわざ「柱」を巡るという設定になっていること、そしてその「柱」が「天の御柱」として特別なものであることが明示されていることに注意しなければならない。ちなみに八卦拳でも柱や樹木の周りを巡るのであるが、この時に中心に立つのが「陰陽樹」と称される。「陰陽樹」は二本の木が絡み合ったように立っているものを言うことが多く、こうした樹木は神社などでも「縁結び」の利益があるとしているところがある。「天の御柱」もイザナギ、イザナミを結びつけているのであるから、これを「陰陽樹」とすることもできるであろう。またイザナギ、イザナミは左右から「天の御柱」を巡るが、これも八卦拳では左周りを「陽儀」、右周りを「陰儀」としていることと類似が見られる。陽と陰は男と女でもあるので、イザナギ、イザナミが柱を巡ったとするのは、ここに陽と陰の巡りのあったことを示している。このように八卦拳とイザナギ、イザナミ神話とは密接な関係があるのであり、それは共に陰陽の結びの秘儀であったのである。