道徳武芸研究 「抜き合気」と五行掌〜束と縮〜(6)
道徳武芸研究 「抜き合気」と五行掌〜束と縮〜(6)
歴史的に五行掌は形意拳が八卦掌を取り入れてから考案されたものと思われ、通常は形意拳と八卦掌をつなぐ練習法と見られることも多い。これは五行「掌」ではより腕のネジリが強調されるので、これが八卦掌のネイ勁に通じるためでもある。ネイ勁を全身に強く利かせているのが八卦掌で、これを「龍身」などと称するが、形意拳でも「龍身」の秘訣はある。ただ形意拳の「龍身」はネジリ・ネイ勁をいうのではなく、膝、腰、肩で体を折って力を溜める秘訣をいう。これにネジリが加わると八卦掌の「龍身」となるわけである。つまり形意拳の「龍身」では力を体の中心に溜める「束」を重視しているのであり、これより前に大きな力が発せられるのが「展」である。一方の八卦掌の「龍身」においては、体の中心に力を溜める(縮)のは同じであるが、これがネジリを利用して行われるので、この力が発せられる時(伸)には歩法の導きによることになる。身法の力が入身の歩法として展開されるわけである。よく「腰」を練るといわれるのは体幹を鍛えているわけで、これは門派にかかわりなく最重要視されているといえよう。形意拳では古くは三体式で「束」の鍛錬をしていたが、より身心がリラックスした状態で練る方が「沈=束」を感じやすいことが見出されて、形意拳の一部では五行「掌」が用いられている。これは太極拳や八卦掌で「掌」が多用されているのと同じ理由で、体幹を鍛える感覚を得るには身心をある程度、緩める方が入りやすいのである。