道徳武芸研究 「抜き合気」と五行掌〜束と縮〜(2)

 道徳武芸研究 「抜き合気」と五行掌〜束と縮〜(2)

大東流の合気上げは「剛の合気」であるとしたが、もしこれを「柔の合気」で行ったとするならば、腕を上げるのではなく、後ろに引いたり、左右に流したりするのが一般的な対処法となろう。これは堀川幸道のいう「抜き合気」でもある。また太極拳では「化(相手の力を受け入れる)」や「走(相手の力をコントロールする)」として多用される。大東流で「合気」をかけると、相手は後ろに体をそらすような体勢で崩されるが、これは剛の合気を使っているためである。これに対して合気道では力を流すようにする「柔の合気」が基本となるので相手は後ろに崩されることになる。合気上げと、合気道の呼吸法はどちらも、両手を取らせて相手を崩すものであるが、大東流では膝の上に手を置くことが多いのに対して、合気道は胸の前で取らせることが多い。こうした傾向は大東流の剛の合気から合気道の柔の合気への変化を示しているともいえよう。本来、大東流の「合気」は抜刀術から出たもので、刀を抜こうとする時に腕を抑えられた状態が基本となる。相手を「合気」で崩してそのまま抜刀に持ち込むには、後ろに崩すよりも前に崩した方が動きの流れとして適当であることは言うまでもなかろう。合気道のように後ろに流すように崩す「合気」へ変化して行ったのは柔術的な展開が、抜刀を前提としていないからに他ならない。


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