道徳武芸研究 なぜ太極拳には砲捶が無いのか(2)
道徳武芸研究 なぜ太極拳には砲捶が無いのか(2)
以下に述べるように理論的にいって太極拳には砲捶は存在し得ないことをしても陳家太極拳の理論は太極拳そのものとは大きく異なっていることになる。陳長興の頃には砲捶と外から入ってきた太極拳があったが、陳一族以外には陳家の拳(砲捶)は教えないことになっていたので、拳を学びに来た楊露禅は太極拳しか学ぶことができなかった。それが有名になって陳三品は陳家の拳こそが太極拳の源流であるとして、陳家太極拳を称するのであるが、その演武を見れば動きの理論の違いは明白であり、「陳家は太極拳の源流」といった先入観がなければとても陳家と楊家が同じ理論の拳であるとは思えまい。また陳家では砲捶が行われていたということであれば、そこに何らかの「母拳」のあったことが想定される。おそらくそれは通臂拳的なものであったのであろう。他にも陳家溝では中国では広く練習されている洪拳なども入っていたとされるから、そうした拳を独自に工夫したのがエッセンスとしての砲捶であったと思われる。おそらく時代と共に砲捶以外のいくつかの拳は練習されなくなり、ただ砲捶だけが残った。結果として練習が難しくなったために陳長興が太極拳をヒントに基礎鍛錬の套路として一路を考案したのではなかろうか。