道徳武芸研究 通臂功としての天の鳥船(7)
道徳武芸研究 通臂功としての天の鳥船(7)
天の鳥船と同じ通臂功は形意拳のスワイ手にも見ることができる。一般的なスワイ手は太極拳のもので腕を回すが、形意拳では前後に振る。ちなみに八卦拳や通臂拳では斜めに振っている。スワイ手はどのように体を開くか(緩めるか)によって、そのやり方を異にしているので練習に際してはよく注意しておく必要がある。それは形意拳や合気道が前後の動きを中心としており、左右にひねるような動きを主とする太極拳や八卦拳などとは異なっているためである。いうまでもなく合気道は剣の動きと深い関係があり、剣は上下に振り下ろす前後の重心移動がとなっていることはいうまでもあるまい。もし天の鳥船を合気道のスワイ手として練習しようとするのであれば、最初はその場で腕を前後にゆっくりと振る。天の鳥船の「鳥船」は、この世からあの世(霊的な世界)へと導く働きの象徴でもある。そうであるから天の鳥船を行なうことで特殊な意識に入ることを川面の行法では目的としていた。こうした「鳥船」は天鳥船(あめのとりふね)の神として神話にも見えるし、古墳の壁画には船の先に鳥の止まっている絵が描かれており、死者の魂を死後の世界に導いている。また、こうした意識の変容は太極拳の起式でも認められる。両腕を挙げて下ろす時に意識が変容して「太極」とひとつになるのである。そして最後には体も「太極」とひとつになる。そうであるから最後の動作を「合太極」と称している。このように腕を前後に振る動作は意識の変容を導くことと深く関係しているのである。