道徳武芸研究 詠春拳と八極拳(3)

 道徳武芸研究 詠春拳と八極拳(3)

ブルース・リ熱(ブーム)の残したものとしてアメリカでは詠春拳、日本では八極拳のあることを指摘しておいたが、これらは共に接近戦を基本とするシステムである。通常の武術は一歩踏み込んで攻撃を当てることのできる間合いを基本とするが接近戦をベースとするものは半歩の間合いとなる。これは腕を触れ合わせた状態での間合いで、中国武術の試合や対人練習での基本の間合いでもある。詠春拳はこうした近い間合いで相手の攻撃を受けるために腕を斜めにするなど工夫をしてその衝撃を最小限としようとする。そして細かな腕の角度と衝撃とのバランスを会得するために木人を使う。太極拳などが相手の攻撃を引き入れている「距離」をとってその間に相手の攻撃の角度を変化させる(化、走)のに対して、そうした「距離」の存しない間合いにある詠春拳では自分の腕の角度を調整することで相手の力を受け流そうとするわけである。そして肘などで頭部を、掌で頸部を攻撃する。よく映画などで詠春拳を拳の連打で相手を倒すように描いている場合もあるが、これは一歩の間合いとして詠春拳を間違って理解しているからである。また映画の演出として詠春拳の本来の間合いでは分かりにくいということも関係していよう。接近戦では当然、蹴りの攻撃は難しい。こうしたことが手技中心のボクシングに近い中国武術として詠春拳が受け入れられたのかもしれない。ただ詠春拳は拳による攻撃を主とするのではなく、鶴拳の奥義である「掌」が基本であることは注意しなければなるまい。そうでなければ詠春拳全体のシステムの誤解を招くことにもなりかねないであろう。


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