道徳武芸研究 太極拳の「レツ」を考える(2)
道徳武芸研究 太極拳の「レツ」を考える(2)
また四隅に至っては「採、肘、レツ、靠」で、これでは全く「対の関係」を認めることはできない。それは考えてみれば当然のことで十三勢は本来「太極=対の関係」においてシステムが成立しているわけではないからなのである。十三勢は「中」とそこから派生する動きによって構成されている。これが明確に見られるのが五歩であり、中定から「前後」「左右」へと展開する。「中」とは中庸であり、儒教では「過不足の無い最も適切な行為」へと変化し得るものということになる。こうした「中」を変化のベースとする考え方は武術では槍術において顕著である。槍が「諸武器の王」とされるのは、それが中段の構えを基本としているからである。中国武術における四大武器とされるのは剣、刀、槍、棍であるが、この中では剣や槍が優れていると考えられている。武器として優れているというのは変化が多いからである。刀は大体において引いて斬るだけであるが、剣では突くことも、押して斬ることも、引いて斬ることも可能である。棒は打つことを主とするが、槍は突いたり、巻き込んだりすることも可能である。このように武器にしろ拳にしろ中国武術で重視するのは「変化」なのである。これは中国文化全体にも通じることで、中国で最も重視されている古典が変化の書である『易(経)」であることはいうまでもあるまい。太極拳が「中」を核とするシステムを構築しているのはそれが「変化」を重んじているからに他ならない。