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第五章 合気道奥義・山彦の道(4)

  第五章 合気道奥義・ 山彦の道(4) 入身は日本の武術だけではなく中国でも重視されていて、玉環歩であるとか七星歩と称されて秘伝とされていて、これらは歩法単独でも練習されることがある。八卦掌では円周を歩く練法が知られているが、これは専ら「斜」の入身を練っている。形意拳では基本であり奥義でもある五行拳では「劈、讃、崩」が「直」で、「崩(十字)、砲、横」が「斜」の歩法を用いている。こうして「直」では力の集中を養う一方、「斜」では攻防の妙味を知ることになる。太極拳では四正が「直」であり、四隅が「斜」となっている。これら推手において四正は基本であって、四隅が応用でこれが攻防への展開となる。これら推手の練法は、興味深いことに四正推手は合気道でいう「呼吸法」、四隅推手は「一箇条」とほぼ同じなのである。

第五章 合気道奥義・山彦の道(3)

  第五章 合気道奥義・ 山彦の道(3) 植芝盛平は武田惣角から新陰流の伝書を得ており、また盛平の門弟で新陰流の免許でもあった下條小三郎から同流の指導を受けたこともあったらしく、道場に新陰流で使う袋竹刀の置いてあるのを惣角が見つけて「新陰流をやっているのか」と咎めたともいわれている。こうした盛平の新陰流への興味もあって合気道では「斜」の入身が多く用いられるようになったものと考えられる。また合気道では「直」の入身を「表」とし、「斜」を「裏」ともしている。

第五章 合気道奥義・山彦の道(2)

  第五章 合気道奥義・ 山彦の道(2) およそ入身の歩法には「直」と「斜」があると中国武術ではされている。大東流は比較的「直」の入身を多く用いるが、合気道では「斜」が主となるので相手を右転、左転させるような技法が多くなっている。大東流が「直」の入身を多用するのは武田惣角が小野派一刀流を修行していたことと関係しているのかもしれない。剣術においては一般的に「直」の入身が多い。ただ新陰流では「斜」を用いて技術革新を試みた。この方法によれば愛相手の攻撃を直接受けないので、どのような強い攻撃であってもそれを考慮する必要がなくなった。また柔術において刀を持った相手に対する時には、どうしても素手で刀に対抗することはできないので斜めの入身を用いるしかない。斜めの入身は刀を持つことのできない武士以外の人たちや刀を使うことのできない殿中などで抜刀して来る相手に対抗する手法として近世にはおおいに発展して行くことになる。

第五章 合気道奥義・山彦の道(1)

  第五章 合気道奥義・ 山彦の道(1) 合気道の奥義として「山彦の道」や「網代(あじろ)に抜ける」の秘訣がある。「山彦」とは「あ」と声を出せば「あ」と応じる木霊(こだま)をイメージしたもので、相手の心身の働きを断って攻守を逆転させるのではなく、相手の攻撃の働きをそのままに受け取って「転換」させることを前提とする合気道の理合を教えている。そして「道」は「網代」と同じで相手の横に踏み出して斜めから入身をする歩法のことである。網代は網代編みなどもあるように竹や葦を斜めに編むことであり、合気道における「網代」には「斜め」よりの入身の意味がある。

外伝8 形意十二形を練る(17)

  外伝8 形意十二形を練る(17) 形意拳の十二形拳は一見して単純であるかのようにも見えるが、そこには実にいろいろな攻防の秘訣が含まれている。十二形は五行拳とも動きが似ているが、これらはすべて三体式へと還元される。こうした形意拳のシステムは動きの還元という点では優れているのであるが、個々の技の意味が見えにくくなるという難点がある。虎形を掌で打つものと解したのではあまり意味がない。これは相手の攻撃を引き落とすようなものとしなければならないのであり、掌での攻撃はあくまで二次的なものに過ぎない。そうであるからやたらに攻撃の威力を求めて十二形を練るのは適当ではないといわなければならない。

外伝8 形意十二形を練る(16)

  外伝8 形意十二形を練る(16) また龍形は太極拳の秘伝である採腿と同じともいえる。採腿は動きとしては太極拳のトウ脚と似ているが、これは力の集中を練るもので、太極拳では「全体力」の秘訣を伝えている。体を「合」から「開」へと移すことで力を発するわけである。基本的には足裏に力を集めるのであるが、これに習熟すれば拳や肘などにも力を集めることが可能となる。龍には特に「縮骨」の秘訣が伝えられている。これは既に述べた「合」と同じであり、形意拳では一般的には「束」と称される。ただニュアンスとしては「束」が体の中心軸に力を溜めるような感じになるのに対して「縮骨」は体全体が縮まり「団子」になるようなニュアンスがある。そしてその一角が開放されてホースで水が発せられるように一気に力が開放されることで力を発するのである。こうした身法を練るのが龍形であるといえよう。龍形の「縮骨」は八卦掌の「縮身」とも似ている。こうしたところから形意拳に伝わる八卦掌が往々にして龍形を冠して伝えられるのである。

外伝8 形意十二形を練る(15)

  外伝8 形意十二形を練る(15) 龍形は崩拳の狸猫倒上樹とほぼ同じである。これも既に述べたように派によっていろいろな練り方があるが、青龍探海の拳訣がある。崩拳の狸猫倒上樹が踏み込むような腿法を用いて相手を引き倒す用法があるのに対して、龍形では低い姿勢のままで真っ直ぐに蹴りを出す。これは狸猫倒上樹の腿法の基本ということもできるが、同時に形意拳のあらゆる歩法においてこの腿法が含まれてもいる。前に出る拳の勢いで足を出すわけである。これは拳での攻撃が受けられたような場合にその勢いをそのままにそれを腿法へと転換して使うことを可能とする身法、腿法となっている。