道徳武芸研究　身体開発法としての合気二刀剣

 道徳武芸研究　身体開発法としての合気二刀剣

大東流には合気二刀剣なるものがある。これは大刀を両手に持って使うもので他の流派には見ることのできない操法である。通常「二刀」といえば大小の刀を用いる。大小でも扱いは難しく実戦で使う流派は宮本武蔵の系統以外ではほぼ無いが、これが大刀二本ではとても扱えるものではない。一方、中国では双剣、双刀、双槍などの両手使いの系統の技法がある。こうした場合に中国では剣でも刀でも槍でも比較的軽いものを用いる。しかし、そうした工夫をしたとしても「双」手の武器は使い難いものである。あえて「双」の練法を残しているのには、やはりそれなりの「必然性」がなければならない。


大東流に「極秘伝」として合気二刀剣があり、中国武術に「双」手での武器法があるのは、それが「身体開発法」としての意義があるからに他ならない。この教えが説かれているのが中国武術の「内三合、外三合」の秘訣である。

内三合とは「心と意」「意と気」「気と力」が合一していなければならない、

ということであり、

外三合は「肩と胯、肘と膝、手と足」の合一である。

これらは単に心身の協調と理解されることが多いが、そうであるなら「内三合、外三合」が秘訣とされている理由が分からない。これらの教えが「秘」訣とされるのは「内三合、外三合」が、人体において力を運用するために「二組三つのルート」があることを示しているからに他ならない。つまり「中心軸」と「左右の軸」を人体に想定しているわけである。およそ武術を実戦で使おうとするのであれば内三合と外三合の三つの力のルートが開いていなければならないのである。


日本の武術では刀を上下に振ることで「中心軸」を開くことができる。これは「中心軸」を開くには最も優れた方法である。刀を上下に振ることで「心」「意」「気」「力」が統一される。「気」というのは「呼吸」である。刀を上げれば息は自ずから吸うことになるし、下げれば吐くことになる。こうして自然に呼吸（気）と動作（力）が一体となるわけである。動作を起こすのは「心」である。「心」による動きにより、その動きを起こす適切な「機」を捉える。そして、どのような動作をするかの「意」が働いて動作が起こされる。思うに日本刀が霊的な存在として見なされるのは、内三合のような内面を開くことと大いに関係しているのではなかろうか。武士たちは経験として、そうしたことを認知していたから刀に霊的なものを感じていたのではなかろうか。

中心軸を開くことの重要性は八卦拳では「四病」として警告している。「四病」とは「前、後、左、右」に身体が傾くことなく安定していなければならない、との教えである。これは全身の協調や足腰の安定、適度なリラックスなどができていることをいうものであり、別にはこうした安定した心身のことを「沈身」と称することもある。中心軸を開くと「沈身」という安定した心身の状態が得られ、無駄のない動きが可能となる。

ちなみに日本刀による内三合を開く練法としては、

坐法　（１）正眼に構えた姿勢を維持する。（２）正座をしたまま刀を上下に振る。

半坐半立法　（１）正眼に構えたまま膝行をする。（２）刀を上下に降りながら膝行をする。

立法　（１）正眼に構えた姿勢を維持する。（２）刀を上下に振りながら歩みを進める。

以上のようなものが考えられる。


こうして中心軸が開かれると「合気上げ」ができるようになる。「合気上げ」をするには相手の手首の関節を適切な角度で極める必要があるが、正眼に構えた状態で腕を取らせてから刀を上げると丁度、良い角度で相手の関節を極めることができるので「合気上げ」は容易にできる。抜刀のための柔術としてなら「合気上げ」ができれば充分なのであるが、これを本格的に柔術として展開しようとするならば、上への崩しに横の崩しが加えられなければならない。「合気上げ」の上への崩しだけでは、相手を崩すことしかできない。これを投げや固めにつなげるには横への崩しが必要となる。そうした事情のもとに作られたのが、合気道の呼吸力養成法である。これには左右の崩しが含まれている。

左右の崩しをするには外三合を開かなければならない。これを大東流では二刀を用いて開くわけである。もちろん呼吸力養成法を練習していれば二刀を練る必要はないのであるが、この鍛錬を知って意図的に左右の軸を使うと、より効果的に身法、手法を使うことができるようになる。また呼吸力養成法を二刀を持った状態で行えば力の移動がよく分かる。植芝盛平は「糠三合持つ力があれば合気道はできる」と言っていたが、刀の重さを利用して相手を崩して行くと力の抜き具合、入れ具合が実によく分かるのである。感覚としては刀の重さだけで充分、相手を崩すことは可能である。


八卦拳では内三合を両儀、外三合を四象とする。つまり内三合が開かれると中心軸を気が上下に移動するようになる。つまりそれは「陰陽」であり「乾坤」でもあるのでこれを両儀とするわけである。次いで外三合では左右の手足で想定される軸を開くことになる。つまりこれは四肢の動きであるので四肢の「陽陽、陽陰、陰陰、陰陽」の変化として四象とするわけである。そして、これら内三合（両儀）と外三合（四象）が組み合わされて八卦へと展開して行くことになるわけである。


合気道における呼吸力養成法は大東流が柔術として展開する上で欠くことのできないものであった。それは大東流では二刀剣として考案されつつあったものでもあった。一見して武術的には奇異な合気二刀剣ではあるが、これを呼吸力を得るための有益な方法として使うことは充分に可能なのである。

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