道徳武芸研究 静坐と武術(6)
道徳武芸研究 静坐と武術(6)
静坐はただじっとして内面を見つめるだけである。そうであるので姿勢も自由とされるし、時間の決まりもない。重要なことは姿勢を保つことによって内面を見つめることだけである。できるだけ内面に心を向かわせるには外的・身体的なストレスは少ない方が好ましい。そうであるから横になって「静坐」をしても構わない。横になる姿勢は古くから「睡功」として伝わっている。これは釈迦の涅槃の時の姿と同じである。寝釈迦とも称される釈迦のこうした像は中国や日本ではあまり見られることがなく、多くは東南アジア地域に存している。これはまた大般涅槃という釈迦の最高の瞑想の境地に入った姿でもあるので、仏教を修行する者はこの境地を目指すべきという意味もあるものと考えられる。これらの上座部地域では、悟りという最終結果がいまだに追究されているのに対して、中国や日本の大乗地域では悟りに至るプロセスである菩薩行の方が重視されている。こうした違いが坐像(悟りへに向かう姿)が重視されるのか、寝像(最高の意識状態にある姿)がよく作られるのかの違いとして現れているのかもしれない。