外伝10孫禄堂の「道芸」研究(31)
外伝10孫禄堂の「道芸」研究(31)
重心至善(雲手学)
孫家の雲手は両手で円を描くもので「環圏」が循環して止まない形となる。ここで重要なのは重心の移動であることはいうまでもあるまい。楊家の雲手の勢は後へ向かうが、孫家では「横」になる。また鄭曼青の簡易式も「横」の動きをベースとする。ただ太極拳には「横」の歩法は存していない。太極拳の五歩は前、後、右転、左転と中定であって、「横」への動きはない。また太極拳の套路には中定は最初と最後にとるでけである。そうしたこともあって孫家や簡易式では雲手で「中定」をとることとした。これは孫家の単鞭でも同様で、現在では多くの人が左足に体重を移動した形が完成形であるとしているが、実際は馬歩(中定)となった時が単鞭の完成形なのであり、そして体重が左へと移動する。馬歩になるもののそれに留まることなく体重を移す。これが重心至善とされることである。また雲手では特に神と気が丹田に集注することが重視されていることは雲手と同じといえよう。呉家も単鞭では馬歩を取り入れいている。雲手は外形は「揺動」するものの腹内は「鬆空」でなければならない。腹内を「鬆空」とするには腰が浮いてはならない。腰が浮くと重心がぶれてしまう。「至善」の状態でなくなるわけである。「至善」は老子がよく使う言葉でこれは「無為」であるとか「自然」であるということでもある。