道徳武芸研究 日本の鍛錬法を考える〜剣術、柔術、相撲〜(2)

 道徳武芸研究 日本の鍛錬法を考える〜剣術、柔術、相撲〜(2)

かつて福沢諭吉は健康法として居合の稽古をしていたというし、徳川慶喜は日常的に膝行の鍛錬をしていたとされる。また相撲は手軽な遊びとして広く行われていた。つまり、これらの鍛錬法は今日のランニングや腕立て伏せ程に身近な存在であったのである。ただ木刀を素振りするだけでは軽い運動としての健康法以上のものを得ることはできないが、素振りは「合気」と「発勁」の優れた鍛錬法たり得た。その根本となるのは中心軸の鍛錬である。ここで言う「中心軸」とは動きに陰陽(メリハリ)を生み出すことのできる体の中心線としてイメージされるのが妥当であろう。ただ一般のスポーツ選手ではこうした中心軸は明確ではない。むしろ舞踊をやっているような人の方が、「メリハリ」のある動きを生み出すための体の軸が開かれていることが明らかである。それは武術ではただ一定の力を出すことよりも「変化」が重要であるからである。同じく舞踊でも「変化」を動きによって示すことができなければ場面の展開を演じることはできない。こうしたところが武術と一般的なスポーツとの違いである。そうであるから武術においては中心軸の開かれていない体から出される「力」を蛮力、拙力と称し、中心軸を円滑に運用して生み出された力のことを「勁」と言って区別したりするわけである。


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