道徳武芸研究 中国武術の漢字学(4)

 道徳武芸研究 中国武術の漢字学(4)

八卦拳では「ショウ泥歩」の問題がある。この「ショウ」は基本的には「尚」の字が用いられるのであるが、「足」偏の場合と、「走」偏(そうにょう)の場合がある。「足」と組み合わせた字は特殊であり、通常は用いられないので、「走」を用いることが妥当と考えられたのであろう。中国武術では特殊な意味で漢字を用いる時には手の動きであれば手偏を、足の場合は足偏を付けて「賛(形意拳)」「朋(太極拳)」なら賛に特別な意味のあることを示そうとする。「尚」も同様で通常は「希(こいねが)う」という意味で使われる「尚」であるが、ここでは「足」あるいは「走(中国語では歩く)」に関係するする意味で用いられていることが「偏」によって示されている。そうなると「尚」の別の意味である「高くする」を表していると理解できるわけである。そうなると「足」を用いるとしても、「走」でも、ショウ泥歩には何れにしても「足を挙げる」という意味があることになり、一般的な八卦掌で行われている地の上を滑らせるような歩法とは違ってしまう。ちなみにショウ泥歩は含機歩(八卦掌の構えと似ている後足に重心を置く構え)の変化であり、「機(巧みさ、秘密)」を含む歩法という意味であるが、その姿勢のままで足を滑らせるように歩む歩法が八卦掌であり、実戦を想定した足を挙げる歩法が八卦拳で示されているわけである。こうした二つの歩法を共に含んでいるので「含機歩」と称されるわけである。つまり八卦掌と八卦拳の一見しての歩法の違いは基礎と応用の違いに過ぎないのである。このように中国武術で使われている漢字を詳細に見ることでいろいろなことが分かってくる。「拳譜」研究の重要性もことしたところにあるわけである。


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