宋常星『太上道徳経講義』(30ー3)

 宋常星『太上道徳経講義』(30ー3)

軍団の居るところでは、土地が荒れて茨が生えて来る。大きな戦いの後では、必ず良くないことがある

「軍事」とは「不幸の機関(不祥の器)」である(第三十一章)とされている。古より聖人は道をして為政者を助けて来たのであり、軍事力を用いることを厳に戒めたのであった。もし、そうしたことがなければ、軍隊は盛んに活動をし、庶民は戦乱に巻き込まれることになって、農家は必ず被害を受け、田畑は荒れてしまうことになろう。つまり、土地が荒れて茨が生えて来ることのないところはないということになるのである。そうであるから「土地が荒れて茨が生えて来る」とあるわけである。軍隊における集団を「軍団」という。軍馬が来ればその土地では、獣は驚いてそれぞれが走り迷う。飛ぶ鳥も地に降りることはない。鋤は用いられることなく、土地は荒れて茨が生えて来る。つまり大軍隊が動いた後には、必ず不作という良くないことが起こるのである。こうした年には疫病が流行し、害虫が野に満ちて、庶民が飢える。盗賊が群生して、街角では暮らして行けず病気でもないのに自殺をして死んでしまう人が出る。考えられないような災いが各地に発生する。こうしたことは全て「良くないこと」の実際である、そして正しい天の道の当然もたらされるべきことでもある。そうであるからここで、大軍を動かした後には、必ず良くないことの起こる年となるとされているのである。もし、日常的に正しい道を修することがどういったものかを理解することがなければ、どのような「小さな土地」も荒れて茨の生えないところはないということになる。心の中では「武器=欲望」が使われ、思いは日々に心を煩わせることになり、魂魄(心身)は時を追って安定を失う。上丹田、中丹田、下丹田はこうして荒れてしまい、血気の働きはこうして衰えてしまう。これは体の中の「良くないこと」ということになる。必ず慎まなければならない。


〈奥義伝開〉老子は軍事そのものが「元凶」の根元であるとして、実質的な被害の他にも天変地異のようなことも引き起こす可能性のあることを指摘する。それは軍隊が自然に反するものであるからである。自然に反する行為はそれが為された分だけは、再び自然な状態にもどろうとする自然の働きがある。これはつまりは「道」である。軍事行為が為されれば必ずその反動があることになる。こうしたことは軍隊でのストレスの多さにも現れている。軍隊では心身に異常を来す人が多いと聞く。つまりそうした組織そのものが自然でない、人として身を置くべきところではないのである。


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