道徳武芸研究 実戦武術と競技試合(5)

 道徳武芸研究 実戦武術と競技試合(5)

日本の武術の多くの流派において特徴的なことに「残心」の重視がある。日本の武術は静かに始まり、静かに終わる。今でも柔道の試合などでは所謂「ガッツ・ポーズ」は好ましくないとされることが多く、最低でも互いの礼が終わって、試合の場を離れてからが許容されるとする雰囲気は今も残っているのではなかろうか。こうしたことからも伺えるように、日本の武術では攻防の場において心を落ち着かせることを第一と考えていたわけである。これは戦いの場において勝つことを第一とするシステムとは全く異なるものであることを忘れてはなるまい。実戦の場で最も重要なことは、勝つことではない。実戦では実力如何にかかわらず勝つ場合もあるし、負ける場合もある。競技試合なら自分が劣っていると分かっていてもベストを尽くして勝つべく努めれば、勝てる可能性もないわけではないので、それを目指すことがむしろ求められる。しかし実戦で負けることは、死を意味している。それで全ては終りとなるのである。こうした状況でとにかく戦うことを選択する人はあるまい。可能であれば勝てない相手からは逃げることを考えるであろう。つまり実戦において最も重要なことは冷静になって「戦うべきかどうか」「戦って勝つことができるかどうか」などを瞬時に的確に判断することなのである。


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