道徳武芸研究 中国武術の「秘訣」の世界(3)

 道徳武芸研究 中国武術の「秘訣」の世界(3)

一字や四字で、深い教えを述べようとするのが中国武術の伝授の方法であった。しかし日本の武術の伝書では「口伝有り」とするのみで、その「口伝」がどのようなものであるのかは記していない。一方、中国武術では「化」であるとか「走」などとあるので、一定程度のイメージを持つことが可能である。しかし、実際のところは師からの口伝がなければ深い意味を知ることはできない。結局のところ「口伝」がなければ本当のことは分からないのであるから、ある意味ではわざわざ苦労して字訣を選んで記す必要も無い。そう考えたのが日本の武術家たちであった。これに対してもし弟子が充分には理解できなくても、時を越えて、人を越えて貴重な教えを、真に理解することのできる人が居るかもしれない、との可能性を信じたのが中国の武術家たちであった。これは戦争の多かった中国でおおくの場合に伝えるべき弟子の居ないこともあったからである。事実、通臂拳の張志通は台湾に来て弟子が少なくその伝承を諦めている。聞くところでは張が大陸で学んだ頃には弟子となって学んだ人が数百人も居て、その中で数人のみが最後まで残って教えを受け継いだという。これを1%とすれば、台湾で五十人、六十人の弟子しか得られないとすれば、その1%は一人に満たないものとなってしまう。そこで張は秘訣を本に記して残したのであった。はたして後に通臂拳の秘訣をよく解読し得る人物は現れるであろうか。


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