道徳武芸研究 中国武術の「秘訣」の世界(2)

 道徳武芸研究 中国武術の「秘訣」の世界(2)

「舎己従人」は「己を捨(舎)てて人に従う」であり、一般的には虚心坦懐に他人の言うことを理解するという意味に使われる。これを太極拳では、相手の動静を知る聴勁の働きの秘訣としたわけであるが、これにはもうひとつ意味があって「己を捨てて人を従える」となる。他人を従えるわけである。太極拳では相手の動きを知った(聴)なら、それによってこちらが優位なように相手を導いて行く。これが「人を従える」である。「打手歌」という秘訣を記した歌では「合えばすなわち出る」とあるが、「合」が「人に従う」で、「出」は「人を従える」とすることができる。「合」と「出」を同じく「従人」に込めているのは、それらが現実には一度に行われるためである。相手に触れた瞬間にその動きを知ってコントロールしている。こうした攻防の間合いのも「妙」も「舎己従人」には含められている。これらはまた柔らかに受ける「化」と、コントロールをする「走」としても表現されている。「化」はよく「受け流す」と解されることが多いが、それであれば防御(合)と攻撃・反撃(出)が一体となった太極拳の動きが充分に説明できているとはいえない。「化」はあくまで相手の攻撃を柔らかに受けることで相手の反撃を封じて、その攻撃の力の勢いをずらせ攻防を転ずるものでなければならない。


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