道徳武芸研究 中国武術の「秘訣」の世界(1)

 道徳武芸研究 中国武術の「秘訣」の世界(1)

中国武術で秘訣をいう場合にはよく字缺(一字訣)が用いられる。字缺とは一字をして秘訣を表すもので、たとえば太極拳であれば「柔」であるとか「鬆」などがよく知られている。また「舎己従人」のように四字のものも多い。これは「舎己」と「従人」を組み合わせて「舎己従人」の意味とする。つまり「舎己」は「己を捨(舎)てる」であり、これは相手の動きをよく知ることをいっている。太極拳ではこうした能力を「聴勁」と称する。攻防において先ずは聴勁が用いられなければならないことを「舎己」は示しているといえよう。そして「従人」は「人に従う」で相手と離れないことである。これは太極拳では「粘」と称され、「粘」を成功させるにはやはり聴勁が磨かれていなければならない。こうして見ると「舎己従人」はつまるところ聴勁の攻防における用い方を教えるもので、そのベースには「粘」があることが分かる。「舎己従人」はつまるところ「聴」や「粘」の一字訣とすることもできる。この時に「聴」勁が働いているだけであれば、相手の動静を知ることができるだけとなる。攻防において重要なことは、それがどのように展開されるのかにある。また「舎己従人」だけでも、どうすればそうした状態が生み出されるのか知ることはできない。中国武術における秘訣はいろいろとあっても結局はひとつの門派であれば、同じことを示していると見なければならない。こうして複合的に字訣を考えることで、一字や四字の少ない情報から広く、深い情報へと広げることが可能となるわけである。


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