宋常星『太上道徳経講義』(19ー5)
宋常星『太上道徳経講義』(19ー5)
この三つは、単なる譬えではない。
ここで「三つ」とあるのは、先にあった「聖を絶って智を棄てる」「仁を絶って義を棄てる」「巧を絶って利を棄てる」である。これらを詳しく見てみると、まったく単なる譬えで言っているのではないことが分かる。とても譬えで済ませてしまえるようなことではなく、真実として余りあることである。太古の日々がよみがえったとしたら必ずそこには「樸」であり「素」である風俗が見られることであろう。これをして家をととのえ、国を治め、天下を平らかにする。そうなれば人々は今より万倍もの利益を得て、父は子に「慈」を、子は父に「孝」をなすようになり、盗賊も居なくなってしまうことであろう。ただここにある短い言葉だけでは十分に意が尽くされているとは言えないので、「この三つは、単なる譬えではない」としているのである。
〈奥義伝開〉老子は、ここに挙げたのはひとつの譬えではあるがその奥にあるものをよく知って欲しいとする。重要なことは「聖」や「智」などの個々のものを絶ち棄てることではく、その判断基準となるものをよく知ることにある。そのことが以下に説かれる。収奪者が民の目をくらませて最終的には自らの収奪を円滑に行おうとするのはここにあげた事柄に留まるものではないのである。