道徳武芸研究 八卦掌における吉祥寓意(1)

 道徳武芸研究 八卦掌における吉祥寓意(1)

龍形八卦掌の八母掌の最後は「八仙過海」である。これは日本でいうなら七福神の宝船と同じで、民間に人気のある八人の仙人が船に乗って蓬莱山(島)へ行こうとしている様子を示している、ことになっている。日本では沖縄など南方地域には古来より海上他界の信仰があって、そこには祖先の霊が居て、時を決めて人の住むところにやって来て祝福を授けると信じられていた。こうしたところからすれば八仙過海の信仰は南方地域から広がったと考えることも可能であろう。もっとも南方の海洋信仰としては媽祖がよく知られている。媽祖が観音信仰との関連で語られるのも、海上にあるとする補陀洛山(海上他界)に観音が降臨するという信仰が関係しているようである。八仙過海にしても、宝船にしても要するに「彼方にある好ましいところに行く」というモチーフがあるわけで、「八仙過海」という語は今日の中国語では「思いもよらないような能力を発揮する」というような意味で使われることがあるようである。龍形八卦掌では、こうした吉祥の寓意を八母掌の最後に持たせているのであるが、興味深いことに八卦拳もその八母掌の最後には「麒麟吐書」があり、これも吉祥を招く意を有している。吉祥を告げるとされる麒麟が「玉書」を咥えて現れ、孔子の出生を予言したとするのが「麒麟吐書」であり、これも新たに好ましい教えが説かれて、好ましい社会が実現することを示す寓意に他ならない。


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