道徳武芸研究 七星歩と玉環歩〜形意劈拳小考〜(4)

 道徳武芸研究 七星歩と玉環歩〜形意劈拳小考〜(4)

合気道の「裏」の入身が結果として玉環歩と似ている形になることは先に指摘しておいたが、これが玉環歩かといえばそうとはいえない。玉環歩の鍵は歩法の連続性にあるからである。わざわざ第一歩を擺歩で踏み出すのは、そのまま次の一歩を踏み出す流れを作るために他ならない。そうであるから八卦掌では擺歩と次に扣歩を踏むことで連続した歩法が可能となり、円周を途切れることなく回ることができているのである。擺歩は本来的には「後ろの足」を一歩踏み出すことで、丸い勢いを作り出して次の歩法を導くのであるが、形意劈拳では「前に出している足」を半歩、擺歩で踏み出すだけである。これは直線の歩法で構成されている形意拳のシステムに玉環歩をあえて取り入れようとしたために他ならない。形意拳の歩法はあくまで直線的に前に出る勢いを使っていて、八卦掌のような丸い歩法の勢いは用いない。劈拳の鷹捉で擺歩を直線において用いるところに「直」の勢いと「曲」の勢いを微妙なバランスで配合した形意拳の妙味がある。こうした形意劈拳を通して入身の歩法を考えてみるならば、始めに直線的な七星歩、合気道の「表」の入身があり、これが形意拳のベースとなった。次いでその変形として「裏」の入身、太極拳の四隅推手が考案されて、最後に玉環歩の擺・扣歩の入身が考案されたものと考えられる。玉環歩は李能然によって取り入れられたようであるが、これが後に形意拳に八卦掌を導入するきっかけとなった。現在でも七星歩はいまだに多くの門派で練習されている。それは七星歩が力を発するのに都合が良いからである。形意拳は七星歩をうまく取り入れた優れたシステムであり、八卦掌は玉環歩によって構築された最も優れたシステムであることを考えるなら形意、八卦を共に練ることには大きな意義のあることが理解されるであろう。


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