道徳武芸研究 柔道、剣道と坐禅〜身体的な要求とシステム〜(7)

 道徳武芸研究 柔道、剣道と坐禅〜身体的な要求とシステム〜(7)

攻防の「技」ではなく体の動きとして見るならば投技は「曲」の動きであり、突き蹴りは「直」の動きである。柔道は「曲」で剣道は「直」である。形意拳は「直」で八卦掌は「曲」である。こうした視点はひとつの技や流派を投げや突き、体術と武器術といった表面的な視点ではなく、そうしたものの中に含まれる深層としての身体の動きとして見た場合に、そこに「直」と「曲」が認められることを示すものである。日本の近現代にあっては柔道が広まるにつれて「直」の動きである剣道が求められるようになった。また剣のような武器がまったく使えない時代となったことを受けて「直」の動きは空手に求められるようになる。そして「直」と「曲」とを含むものとして少林寺拳法などが提示されるようにもなったわけである。一方、中国では「直」の動きの形意拳には「曲」の八卦掌が取り入れられた。ちなみに八卦掌の源流である八卦拳には「直」の動きとして羅漢拳、「曲」としては八卦掌があったのであるが、形意拳では「曲」の八卦掌だけが取り入れられた。形意拳は天津派の李存義、張占魁によって中国全土に広まるが、それにつれて八卦掌もその存在が知られるようになる。このため八卦「拳」は八卦「掌」というやや変わった名称で知られることになった。また一部には八卦「拳」を正しい名称として使おうとする人たちもいた(孫禄堂や孫錫コンなど)。こうした武術家は何らかの経緯で「八卦拳」が本来の名称であることを知っていたのであろうが、形意拳に取り入れられた「八卦掌」が八卦「拳」の一部であることは理解していなかったようである。


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