道徳武芸研究 柔道、剣道と坐禅〜身体的な要求とシステム〜(4)

 道徳武芸研究 柔道、剣道と坐禅〜身体的な要求とシステム〜(4)

戦中は特に日本人の「精神性」が強調され、そうした中で「禅」への関心が持たれるようになる。鈴木大地や西田幾多郎などが知的リーダーとして禅宗の「禅」から新たな哲学的な営みとしての「禅」へと道を開き、多くの若者の心をつかんだ。西田を代表とする「京都大学学派」で学びたいと熱望する学生も多かったと聞く。日本では近世から近現代において柔道、剣道、禅が重要な関係性を有するものとして認識されるようになって来たのであるが、これは中国での八卦掌、形意拳、太極拳の組み合わせときわめて近いものがある。このような「現象」が見られるのは、これらが現在において武術、武道のひとつの「理想的な形」であるからなのではないかと考えられる。興味深いことに本来は拳術である八卦掌は柔術的な投げ技として知られるようになって来ており、形意拳は一時は銃剣術への応用が模索されたこともあった(黄柏年『形意拳拳械教範』)。また太極拳は静坐一体のものとしてとらえられることもある。これについては陳微明の『太極拳答問』で太極拳は静坐に比べて簡単であることが強調されていることでも明らかであろう。つまり太極拳を修行することで静坐と同様の効果を得ることができる、と同時に太極拳はただ体を動かしていれば良いだけなので、静坐よりは遥かに簡単であるとするわけである。つまり近現代の中国でも期せずして八卦掌(柔道)、形意拳(剣道)、太極拳(坐禅)とする組み合わせへの成立し得る傾向が見られるのである。


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