道徳武芸研究 鉄砂掌を考える(1)

 道徳武芸研究 鉄砂掌を考える(1)

鉄砂掌は掌を鍛えて鉄の如くにすることで、この功の成就を得た人に打たれれば骨までも砕かれてしまうという。英語ではこれを「lron palm」と訳されることが多いようであるが、それであれば「鉄掌」となる。ただ鉄砂掌の「鉄」は「掌」にかかるのではなく。「砂」にかかるのであり、鉄砂掌は「鉄のような砂で鍛えられた掌」と訳されなければならない。ただ、こうしたことは大体において鉄砂掌にまつわる少なからざる妄想、伝説の類のひとつといわなければならないであろう。かつて香港の李英昴は「百日速成鉄砂掌」で有名を馳せていた。それは従来、秘伝とされていた鉄砂掌を本とビデオ、そして「秘薬」も付けて販売したためである。鉄砂掌では特に「秘薬」が重視されていて八卦拳の宮宝斎師爺は虎の骨髄から作った「秘薬」を大陸から持って来ていたと聞いた。弟子の何静寒老師たちはこの「秘薬」を使ってしばらく鉄砂掌の練習をしたが、台湾ではそうした「秘薬」を作ることはできないので、薬がなくなると練習は止めた、と話されていた。日本でも『鉄砂掌』(1983年)なる本が出版されたこともあった。また鉄砂掌は「秘薬」を得て練習をしなければ心身に異常が生じるとも言われている。ただ鉄砂掌を練っても掌そのものが強くなるわけではない。ただ打撃に対する耐性が生まれるだけである。耐性が生まれることを「強くなった」とすることもできなくはないが、一定程度以上はいくら鍛えても掌が強くなることはないので「耐性」と捉える方が妥当であろう。


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