道徳武芸研究 擒拿と按脈(中)

 道徳武芸研究 擒拿と按脈(中)

徐紀の「用法」の解説に見られるのは「相手を畳むようにして攻撃不能にさせる」という方法であり、必ずしも逆手に極めることに執着してはいない。ここで見るべきは、相手の攻撃を制するための肘の抑え方などに注意が促されている点である。譚腿などの教門長拳で擒拿はそれ自体が攻防に使われるというよりも、擒拿を練習することにより逆手・関節技で攻防において相手の肘を抑え(断勁)る方法を会得し、拳や腕の攻撃力を無力化することを習得したり、また肩を制することで相手のバランスを失わせ(抜根)て攻防を有利に展開しようとすることを学ぶことができるのである。先にも述べたように韓慶堂が擒拿を「警察応用技能」としたのは、擒拿は擒拿だけで相手を捕り抑えるなど独立して用いることもできるし、教門長拳のひとつの鍛錬としても存しているためであったと考えられるのである。擒拿を拳術において使うためにはそこで脈を抑える「按脈」の方法を知らなければならない。日本の柔術の逆手・関節技も本来は「警察応用技能」的な傾向が強かったのであるが、興味深いことに大東流は「按脈」を中核としてシステムが構築されているのである。まさに合気上げ(呼吸法)は按脈を習得するためのひじょうに優れた方法である。また大東流では例えば四人が両腕、両足を抑えて、一人が胸の上から首を締めるのを投げ飛ばす、五人捕りの技があるが、こうした形は江戸時代の柔術の伝書でも見ることができる。しかし、その場合には抑えられる方はうつ伏せにされている。それはこれが相手を取り押さえるための技法であるためである。大東流で仰向けに抑えられる形にしているのは仰向けであれば体の自由が利くが、うつ伏せであれば体を動かすことが難しいためである。柔術に見られるうつ伏せの捕り方と、大東流の仰向けの捕り方ではその意図しているところがまったく逆になっているわけで、大東流では多くの人の「脈」を同時にコントロールする方法を学ぶことが主となっているわけなのである。そうであるから抑え方としては有り得ない方法をあえて採用しているのである。


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