第六章 正座と四股と馬歩(1)
第六章 正座と四股と馬歩(1)
正座の鍛錬は日本の武術を特徴付けるものであろう。こうした鍛錬法は世界の他の武術に見ることはできない。また四股は相撲の鍛錬法であるが、四股は本来は「醜(しこ)」であり、古代の日本では力強いことは醜いことと考えられていた。これは「禍(まが)」も同様で曲がって力を溜めている状態を好ましくないものと考えていたのであった。一方、まっすぐである「直(なお)」はあるべき好ましい状態と捉えられていた。四股は力強く足を踏む行為であるのでそれは醜いものと捉えられたのである。これと同様に足を踏み込む鍛錬法としては中国武術に震脚として伝えられているものがある。特に陳家の太極拳ではそれを多用する。この四股は中国武術からすれば馬歩の鍛錬の一種とすることができよう。椅子を使う生活が一般的である中国ではその姿勢に近い馬歩が鍛錬の中心となり、近世以降、畳が広く普及してからは日本では正座が生活の中心であった。正座や馬歩の鍛錬法が編み出されたのはいづれも日常生活をベースとしていたと考えられる。