第一章 塩田剛三と金魚(16)
第一章 塩田剛三と金魚(16)
塩田剛三は、金魚鉢を叩いて金魚が瞬時に方向を変える身法を研究していたという。この時、金魚は全身を働かせて瞬時に体の方向を変えることを塩田は見出したのであった。このような身法を太極拳では上下相随と称する。盛平が晩年に言い出した心身統一も塩田が金魚に見たのと同じ身法であろうと思われる。そうであるなら心身統一はどのようにすれば可能となるのか。それは「臂力」の養成にあることをも塩田は見抜いている。「臂力」の使い方の秘訣を太極拳では含胸抜背で伝えている。要するに肩甲骨を柔らかく使うことで全身の協調した力を生み出すことができるということである。含胸抜背は発勁の時の秘訣で、これは投手が球を投げた時の姿勢でもある。しかし太極拳では往々にして、これを通常の姿勢を教えるものとして猫背のような脱力を良しとする傾向があるが、それでは実際に力を発することはできない。含胸抜背も広くとらえれば通臂功の範疇に含まれるものである。