第九十九話 中国武術文献考(20)

第九十九話 中国武術文献考(20)

松田隆智により発勁」という語が広く知られるようになった。かつて日本の中国武術界では発勁を会得すれば絶大なる威力を有することができると考える人も多かった。しかし中国では「発勁」という語にそのようなニュアンスを持たれることはほとんどないであろう。むしろ「鉄砂掌」の方がそれを特別なものとして評価することがある。鉄砂掌は砂や緑豆、小さな鉄玉などを入れた箱や袋を用いて手を鍛えようとするもので、特殊な薬を使ったりするという。かつて香港の李英昴は百日速成鉄砂掌で有名であった。鉄砂掌を教本と動画で紹介し、加えて秘伝とされていた「薬」も付けて販売していた。ちなみに八卦拳では虎の骨髄液を使うとされていた。そうなると鉄砂掌の練習はできないこととなってしまう。日本では竜清剛の『鉄砂掌 中国拳法・秘伝必殺』がある。竜は双龍拳法総会なる団体を率いているというが『鉄砂掌』以降の活動は明らかではない。実は同書が発売された頃、奈良行の電車に乗っていたら竜が斜め前に座って来たことがある。白のポロシャツに白のパンツ、白の靴で、独特のサングラス、髭が印象的であった。他に『太極拳の科学』や『太極拳の神秘』などの著作のある陳孺性も実態がよく分からないが独特な武術論を披歴している。

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