第九十九話 中国武術文献考(17)

 第九十九話 中国武術文献考(17)

それにしても沢井健一の伝えた「立禅(踵を少し浮かせる)」や「這」は意拳で見ることのできないものである。中国には伝承のよく分からないが、何らかの真伝が継承されているのではないかと思わせるものが少なくない。台湾やアメリカで武術を教えていた尹千合という人の伝えた呉家太極拳も独特で他では見ることできない動きである。日本では布施勲が『図解コーチ 太極拳』で紹介している。このシリーズは『合気道』として鶴山晃瑞が大東流を紹介するなどかなり独特な選択が見られる。布施はほかに『少林拳入門』も著している。尹千合の太極拳は安定邦が伝えたもので安は呉鑑泉から楊家太極拳の大架式を学んだとする。ただその套路は呉家にも楊家にも似ていない。他に台湾では熊養和という人の太極拳も有名であったが、これは熊氏太極拳と称していた。おおよその動きは楊家であるが伝えるところでは甘鳳池の江南派太極拳、胡虎の古式太極拳に楊健侯の楊氏太極拳が基になっているとする。甘鳳池は「武侠」として映画などでは知られた人物であるが武術の伝承については明らかではない。太極拳の演武を見ると如封似閉で左手はそのままに右手を大きく下げている。これは楊澄甫の晩年の動きである。このことからすれば、熊氏は楊家でも新しい段階の形ということになる。また王延年の楊家秘伝太極拳も独特である。これは王延年が張欽霖より伝えらえたものとする。張欽霖の名は楊澄甫の『太極拳体用全書』にも弟子として名前が見えている。また張は左莱蓬から神仙道(金丹派 龍門派)を学んだという。左の教えは鄭曼青も強い影響を与えて、それにより太極拳の深い悟りを得たとされている。王延年の太極拳は台湾では人気があって練習する人も少なくない。

このブログの人気の投稿

道徳武芸研究 八卦拳の変化と蟷螂拳の分身八肘(8)

道徳武芸研究 改めての「合気」と「発勁」(6)

道徳武芸研究 八卦拳から合気道を考える〜単双換掌と表裏〜(4)