第九十九話 中国武術文献考(14)

 第九十九話 中国武術文献考(14)

沢井健一の『実戦中国拳法 太気拳』は隠れたロングセラーといえるのかもしれない。現在は新装増補版が出されている。沢井は戦前に王向斉から意拳を習ったという。意拳は大陸ではほぼ忘れられた武術となっていたが、この本の出版を機に大陸でも意拳の本が多く出されるようになった。ただ不思議なことに、沢井に関しては大陸で出ている本を見ても大体が日本で出版された情報の範囲に留まるもので、共に拳を学んだというような話はほとんど出てこない。また唯一、同門の人物としている「黄樹和」についても不明のままである。そうであるなら沢井は本当に意拳を学んでいないのか、というとそうではないようで、沢井の動きは全く意拳独特のものである。また通背拳の武田熙は大陸で沢井に意拳を習うことを誘われたと述べている(『通背拳法』の日本語訳版)。また『太気拳』の出版に際して沢井は「写真では本当の動きは分からない」というようなことを言って難色を示したとされているが、これは本当で意拳(太気拳)は独特の動きをする。確かに沢井の動きは意拳そのものであり、そのことを沢井もかなりの意識をしていたとのであろう。これらは沢井が確かに大陸で意拳に触れていたことを証しするものと考えられる。

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