第一章 塩田剛三と金魚(6)

 第一 塩田剛三と金魚(6)

つまり達磨により禅がもたらされたことで太古の導引が内的なものと外的なものに分かれることとなった、そうした歴史的な事実を象徴するところとして「少林寺」があったのではないかと考えられる。伝説の少林寺の拳として「少林五拳」の伝承があったとのもそうしたイメージによるものであろう。少林五拳は龍拳、虎拳、豹拳、蛇拳、鶴拳であるとされている。これを作ったのは元代の人である白玉峰で、白玉峰は人の体は「精、力、気、骨、神」によって構成されているとし、それらを鍛練するためのエクササイズが五拳であったのである。つまり龍拳は神を練るもので、虎拳は骨、豹拳は力、蛇拳は気、鶴拳は精を練るとする。またこれらは五禽戯をベースに白玉峰の習得していた洪拳のエッセンスを加えて考案されたものであるともいう。ただ五禽戯は「虎、鹿、熊、猿、鳥」の動きから出来ていて、五拳とは内容を異にしている、というより「虎」以外に同じものはない。また五禽戯がすべて実在の動物であるのは興味深いところであろう。

 

五拳のような動物の動きから生まれた武術を象形拳と称する。朽木寒三の『馬賊戦記』には五禽戯が武術として練られていたことを伝えている。五拳の内容を見ても龍拳は神を練るものであったし、他の拳も骨、力、気、精を練るものとあった。こうしたことからすれば五拳もまた導引的な側面を深く有していたということが分かる。そうした中で特に武術的な部分を発展、特化したのが五拳ということになるのであろう。古代の導引がさらに健康、宗教、武術などに適するよう改良、特化されて行く過程において、健康法や修行法、武術などに分化して行ったと考えられるのである。つまり「少林寺」として象徴的に示されているのは、インドから高度な瞑想法である禅が渡来することによって、太古から伝わった導引から高度な武術が生み出されたということであると考えらえるのである。

 

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