第九十九話 中国武術文献考(9)

 第九十九話 中国武術文献考(9)

日本で早くから中国武術を教えていたのが佐藤金兵衛である。佐藤は王樹金から学んだ太極拳や形意拳、八卦掌などを『太極拳』『形意拳』『八卦掌』として発表している。『八卦掌』では後に自らの会を開くことになる地曳秀峰が演じている。同書の用法では閻徳華の『少林破壁』で紹介されている対練を実演している。八卦掌の用法についてはなかなかそれを示すことが難しいのか松田隆智の『八卦掌入門』でも同じものを使っている。また松田の本では套路の紹介も姜容樵の『八卦掌』にあるものを実演して付するなど一冊の本としての情報量を確保するのに苦慮している様子がうかがえる。八卦掌の用法としては古武術研究家の鶴山晃瑞が『中国拳法』でその用法を大東流をもって示している。鶴山は大東流の伝承に柔術、合気柔術、合気之術のあることを考えており、柔術は鍛練的な要素が強く青年向きで、合気之術は導引的な要素が強い年配者に向いたものとして、合気を使った特殊な柔術を合気柔術と位置付け得るとしていた。鶴山はこれが「史実」であり、こうした三つが完全に伝承されているか否かが大東流の正統を考える鍵となるとしていた。そして大東流は幕末の会津で作られたもので、中国武術の太極拳や形意拳、八卦掌もそこに含まれていたと考えていたようにも思われる。つまり形意拳を「柔術」レベル、太極拳を「合気之術」レベル、八卦掌を「合気柔術」レベルとみていたために、八卦掌をして大東流でその用法を示そうとしたのではないかと考えられる。合気柔術で用いられる「合気」は中国武術では「化」「走」「粘」とされるもので、これは形意拳にも太極拳にも、八卦掌にもある。

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