第九十九話 中国武術文献考(5)

 第九十九話 中国武術文献考(5)

松田隆智とならんで中国武術界をけん引したのが笠尾恭二である。笠尾の『太極拳技法』は簡化太極拳(二十四式)の実演と、図で楊家太極拳が紹介されている。笠尾は楊家を取得していなかったのである(王樹金から九十九式を伝えられていた)が、同書では陳家と楊家の拳譜を比べて、陳家から楊家への変化の考察も試みられている。また同書では太極拳の玉女穿梭に八卦掌の影響があるのではないかともされているが、これは笠尾の習得していた龍形八卦掌の白蛇吐信と動きが似ていることによったものであろう。また歩法においても玉女穿梭は転身を繰り返すが、その時にはつま先を内側に向ける扣歩を使う。こうしたことも八卦掌との関連を考えさせたのではないかと思われるが、転身をしようとするのであれば扣歩を使わないわけにはいかない。八卦掌との特殊な関連をいうのであれば扣歩と擺歩の組み合わせが無ければなるまい。龍形八卦掌の白蛇吐信はむしろ太極拳から動きをとったものなのである。九十九太極拳、形意拳、龍形八卦掌は特に九十九太極拳が「正宗」をもっていわれるように、そこでは太極拳、形意拳、八卦掌に分かれる「前」の動きが追究されていた。歴史的にいうならば九十九太極拳は呉家をベースに楊家や陳家それに形意拳、八卦掌の動きを加えたものであるが、これを逆に太極拳、形意拳、八卦掌に分かれる「前」の動きであるとして「正宗(正統)」をもっていうのである。もちろん九十九太極拳を練習する人以外ではこうした評価がされることはまったく無い。

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