第九十九話 中国武術文献考(4)

 第九十九話 中国武術文献考(4)

松田隆智は映画雑誌などでもよく原稿を寄せており、空手ではない正しい中国武術の情報を発信していた。松田の著した『中国武術』はほぼ呉図南の『国術概論』によったものである。門派の概略、套路、系統図、人物紹介などで構成する組み立てはほとんど『国術概論』と変わらない。ただ『中国武術』では台湾で松田が得た知見などが加えられているほかに自らが修行をした陳家太極拳や八極拳などが詳しく紹介されている。後に箱入りの『図説中国武術史』なども出版されたが、この時、蟷螂拳の実戦技として片手倒立をしながら左右の足で相手を蹴るという「衝撃」的な写真が掲載された(穿弓腿)。これは同じく『秘伝日本柔術』の大東流で数人に担ぎ上げられた状態から一気に潰して固めてしまうというこれも「衝撃」的な写真と同じ「雰囲気」を感じさせるものであった。ある意味でこれらは写真の時代ならではの「衝撃」の演出であったように思われる。後に古武道大会で大東流の担ぎ技が披露された時には会場に失笑が漏れた。また当時、中国武術を学んでいた人は少なからず片手倒立をしての蹴りを練習したものであるが、倒立をしようとした時点で相手との間合いがきまってしまうので、蹴りを当てることはほぼできない。この技の本来の使い方は蹴った足を掴まれたりした時に片手をついて体を回すと同時に別の足で相手を蹴るものである。既に相手に足を捕られている状態で転身をしてもう一方の足で蹴るわけであるから死角からの蹴りとなる。また間合いが固定されるのもこうした状況にあるからに他ならない。同様の技は陳家太極拳にもあり『陳氏太極拳図説』にも示されている。

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