第九十八話 絶招研究 太極拳篇(14)

 第九十八話 絶招研究 太極拳篇(14)

太極拳においては分勁の速さが基本である。2点間を3ミリで動くのと同じ速さで3センチ(寸勁)、30センチ(尺勁)と動いて行くので「快拳」は速く見えるのであるが、本来的には速度に変化はないのである。そうであるから「快拳」はいわゆる「砲捶」とは違っている。一般的に「砲捶」は実戦用の套路であり、それを練り上げることが求めらえれる。陳氏太極拳などでも同様である。しかし楊家の太極拳では砲捶を持たない。最高級の動き(套路)は3ミリ「単位」の動き(分勁)であるのでそれを決まった形にすることはできないからである。先に螺旋と滾勁との違いのあることを述べたが、それは纏絲勁と滾勁の違いでもある。陳氏太極拳は本来は陳家の「砲捶」と称されていたが、陳品三が陳氏の螺旋の動き、つまり纏絲勁が「易」と同じであることから、陳家の套路もこれを六十四に分けて六十四卦で説明することが可能であるとし、陳家の「砲捶」が太極拳と称するにふさわしいものであることを「証明」したのであった。しかし、易の陰陽は螺旋の動きではない。あくまで陰と陽とが半分づつに分かれている。螺旋の動きとして陰陽を表現するのは太極拳の太極双魚図によるものである。これらは陰陽の動きが変転することを示している。つまり3ミリ単位で動くのであれば、前に出ている動きも、後ろへの動きにそのままで変わり得ることを教えているのであって、纏絲勁のように腕や体のねじりを使って力を発するというものではない。つまり陳品三が陳家の「砲捶」を太極拳とするのは楊家の双魚図に淵源する螺旋の図によっているのであるが、それは「易」とは直接に関係するものでは無く、六十四卦とも無縁なのである。陳家の「太極拳」は楊家と同じ太極拳の影響を受けて成立したものであるが、その原理は陳一族の伝える纏絲勁をもって統一されている。纏絲勁は「尺」の勁を練るもので、太極拳の抽絲勁の「分」を練るものとは異なっている。この「尺」と「分」の違いが速い動きを求める陳家とゆっくりとした動きを追究する太極拳の違いとなっている。

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