第九十八話 絶招研究 太極拳篇(2)

 第九十八話 絶招研究 太極拳篇(2)

太極拳では特に「絶招」が語られることはないが、進歩搬ラン捶がそれであるとする人は少なくない。これも歩法を伴う中段への突きであるので、結局は半歩崩拳や単換掌と大枠では同じということになろう。伝わるところでは楊露禅が少林僧との試合でこれを使い、相手を絶命させたことが原因で故郷に居ることができなくなり、結果として武禹譲を介して北京へおもむくこととなった。もし、これがなければ太極拳は中国の一地方で埋もれてしまっていたかもしれない。かつての中国社会では武術で相手を倒すと相手方からは門派の名誉をかけて狙われる可能性があった。露禅は晩年に至るまで故郷に帰ることがなかったようなのでこうした話もある程度は信ぴょう性があるのかもしれない。有名な呉家太極拳の呉公儀は、太極拳の実用性が話題となった頃、香港の現地の武術家との試合を行った。そこでは冒頭で呉の進歩搬ラン捶が相手の鼻にヒットして、それが原因で試合は呉の優勢のまま途中で止められた(相手の鼻の流血が止まらないのとが原因とされた)。これも双方の門派の名誉を考えてのことで決定的な勝ち負けが出ない内に止めさせたのである。進歩搬ラン捶では「搬」や「ラン」を用いて相手の攻撃をさえぎることを前提としている。「搬」と「ラン」は「遠い間合い」と「近い間合い」を意味し、また「外から内への捌き」と「内から外への捌き」を意味する。こうして相手の攻撃を防いで、こちらは正面から突きを入れる。この技を使うと相手は前に崩れるのでその勢いと、こちらの突きの勢いが相乗されて大きな威力を発揮することになる。ただ、これを使うには「粘」勁が使えなければならない。

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