第九十七話 絶招研究・八卦掌篇(10)

 第九十七話 絶招研究・八卦掌篇(10)

現代の多くの八卦掌諸派に身られるこうした「錯誤」はひとつのシステムにおいて「暗」のみではそれを完結させることのできないことを示している。つまり八卦掌においても、一度は「明」の心身の使い方を知っておかなければならないのである。八卦拳は清朝末期に世に出た拳で北京で董海川が八卦拳を教えた相手は既に一流の武術の達人たちであった。そこでは八卦拳の「明」を練る「拳」の部分は必要なく、専ら「暗」を練る「掌」をのみ教えれば良かったのであった。また世に広まった天津派の八卦掌は張占魁や李存義という形意拳家によるものであり、ここでも「明」は形意拳によって充分に鍛錬されていた。その上で八卦掌は「暗」を担うことで、ひとつのシステムの完成を促すことが可能となったのである。つまりひとつのシステムとしては形意拳からすれば八卦掌の修練により「暗」の勁の使い方(滾勁)を知ることが容易になったのであるし、八卦掌からすれば形意拳を練ることで「明」の勁の運用を知ることが可能となるのである。形意拳も八卦掌も中段の構えを基本としているので、これら二つのシステムはより密接に、強固に結びつくことが可能であった。ちなみに形意拳の中段の構えは正面を向いているが、八卦掌は横を向いている。これは「明」と「暗」の勁の使い方を明確に示すものである。身体の構造上、「明」の力を有効に使うためには正面(直)でなければならないし、、入身を使うには横向き(斜)である必要があるのである。

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