第九十六話 絶招研究・形意拳篇(9)

 第九十六話 絶招研究・形意拳篇(9)

攻防の形として有効な順歩や半歩を捨ててなぜヨウ歩の崩拳を練るようになったのであろうか。これは形意拳における滾勁との関係があるためである。形意拳の基本である半身の構えが攻防において最も有利な構えであることを発見したのが岳飛である。次に槍の操法を持ち込んだのが姫際可であった。これにより崩拳に見られるような直線での攻撃が可能となった。そして滾勁を取り入れたのが李能然であり、そのあたりのことが伺える興味深いエピソードがある。

「半歩崩拳、遍く天下を打つ」と賞された郭雲深は意気揚々と師の李能然の下に帰って来た。その時に李は車毅斎のところを訪ねるように促した。半歩崩拳をもって猛攻をする郭雲深は車毅斎を壁際まで追い詰めたが車はそれをかわして郭の後ろに回り込んだ。これは郭の崩拳を滾勁をして巻き込むように受け流したためでる。半歩崩拳は半身のままで左右が変わることがないので、その勢いを化することができれば後ろに回り込むことは難しくはない。このエピソードは李能然が形意拳の技術の革新を進めていたことを示していよう。車毅斎の伝えた山西派の崩拳は上下に腕を回すように動かして相手の攻撃をたぐるように受ける。こうした滾勁の動きにより、半歩崩拳の猛攻をかわすことができたのである。ちなみの八極拳の李書文の「絶招」の猛虎硬爬山もその眼目は両手で相手の攻撃をかき落とすような動きにある。李の攻撃により相手の頭部が体にめり込んだなどとする伝説があるのはその動きが上から下へとかき落とすようなものであったことを表していよう。

このブログの人気の投稿

道徳武芸研究 八卦拳の変化と蟷螂拳の分身八肘(8)

道徳武芸研究 改めての「合気」と「発勁」(6)

道徳武芸研究 八卦拳から合気道を考える〜単双換掌と表裏〜(4)