道徳武芸研究 李香遠の「暗腿」(上)

 道徳武芸研究 李香遠の「暗腿」(上)

楊露禅の伝えた套路では足を上げる動作が含まれていた。これは呉家の快架にも残されている。露禅は初めは実戦用に改めた套路を教えていた。これは武禹襄に対しても同様であり、北京に出てからは全佑(呉鑑泉の父親。満州族)においても等しく実戦用の套路(楊家ではこれを「長拳」と称する)が伝授されたのであった。呉家では後に露禅の息子の班侯から本来の太極拳である慢架を習った。ために呉家太極拳には二つの套路(慢、快)を有することとなった。足を上げる動きは快拳の方に見られるが、このことをしても実戦用の套路、つまり露禅が教えた套路に足を上げる動作のあったことが伺えるのである。またこうした動作は楊澄甫の弟子の董英傑の套路においても見ることができる。これは李香遠から示唆を受けたものとされている(『太極拳秘術』で触れた)。董が南方へと太極拳を広めて行く旅に出ようとした時、李香遠は、「君の太極拳では実戦には不十分である」として、足を上げる練方を教えたとされる。これは蹴りへの変化を含むものであり、これは実戦には欠くことのできない奥義である。太極拳の多くの動作にはこうした蹴りが隠されて(暗蔵)いる。よく「太極拳は相手の攻撃を受けてから反撃をする」などという人がいるが、それは正しくない。実際は相手の攻撃を受けると見せて同時に攻撃をしている。それは拳訣に「相手が動かなければことらは動かない。相手が動けばそれよりも先に動く」とあることでもわかるであろう。


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